【初級者向け】ロボトレース競技に使えるいい加減でOKなギヤ付きホイールの作り方
はじめに
この記事はマイクロマウス Advent Calendar 2025の1日目の記事です。次の記事はPIDream氏より壁センサの線形化です。
マイクロマウス ロボットコンテストにおけるロボトレース用のロボットを製作するうえで、私が最初に困ったのが変速4輪の足回りユニットです。とりわけ、ギヤ付きホイールは全然ノウハウが公開されていないため、構造や作り方にかなり困りました。現代であれば、優秀な3Dプリンターによりギヤ一体型のホイールを印刷する方法や、あれを買う方法がありますが、私がロボトレースを始めた当初では存在せず、ギヤ付きホイールの用意はかなり苦労しました。
そこでこの記事では、初級者がよりロボトレースで自分の機体を開発しやすくするために、安く、手軽に、量産可能かつロボトレース競技で優勝実績まであるにも関わらず、作りかたは結構いい加減でOKなギヤ付きホイールを作る方法を紹介します。この記事でホイールの作り方、考え方を学び、次のステップアップしたトレーサーの作成に役立ててもらえると嬉しいです。
これすらも面倒な人は、0.2mmノズルを使い3Dプリンターでギヤ付きホイールを一体で印刷したり、市販品を購入しましょう。
この記事の対象者
- キットロボットからステップアップをしたい初級者
- 自分なりの駆動ユニットをまだ持っていない人(変速4輪機構とか)
- MISUMI, KHKといった追加工サービスのある業者にアクセスできない人
- 自作をしたい人
結論
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ギヤ | 共立エレショップのPOMギヤ※ 歯数はお好みで |
| ホイール | 3Dプリンターで自作。φ6軸を通せる穴。 |
| ベアリング | フランジ付きベアリング。外径φ6・内径φ3。例えばこれ。 |
| 補助部品 | ギヤ外径とホイールφ6内径を中心出しするジグ |
| 作り方 | ホイール側を二塩化メチレンで溶かして接着面を作り、ジグでホイールとギヤをセンタリングしてセメダインPPXで貼り付け |
結論。ジグを使ってホイールとギヤの中心を合わせて接着する。ギヤの中心にはジグやホイールの突起を避ける穴をあけておく。接着前にホイールのギヤ接着部を溶剤で溶かして均すのが強固に接着するコツ。記事を読んでいくと詳しいことが分かるが、「こんないい加減でいいの!?」とツッコミを入れたくなる。ウチもこんないい加減でいいのかと全く自信はなかったが、結果的にはこんなでもよかった
既存の方法
MINI-Zホイールを使う方法は、初級者~中級者のトレーサーでよく見かけますが、方法としては中心にφ6の穴が開いたギヤをMINI-Zのホイールのオフセット部分にはめ込むというものです。このようなギヤは市販品にないためMISUMIやKHKで追加工してもらいたいところですが、入手性が良いとは言えません(少なくとも私はそのギヤにアクセスできません)。タミヤのギヤに自分でφ6穴をあけてもいいのですが、中心軸合わせが容易ではありません(CNC系の加工機があればできる)し、ギヤ歯数も選べません。私は昔、知人宅のレーザーカッターで穴あけしてもらい、Mini-Zホイールに貼り付けましたが、穴あけ機会がなかなか設けられず苦労しました。
FDMの3Dプリンターで一体成型する場合、形や直径が自由になるだけでなく目当てのギヤ付きホイールの形で一体成型できますが、かみ合わせに難があります。そのため、悪いかみ合わせのまま使うか、0.2mmノズルを使うか、ギヤのパラメータを試行錯誤で探すといった手間が必要となります。(これを買う手もある)
※0.2mmノズルを使うのが手間か...というと、プリンター次第なんですよね~
光造形の3Dプリンターというのもありますが、実用強度を考えるとインクジェット式のものを使いたいですよね。ええ、高いしすごく待たされます。
最後にCNCで切削する方法ですが、これは最高性能のものが作れます。オリジナルマインドの記事もあります(Maker's Guide / KitMill 両面加工でつくる、最速のホイール | ORIGINALMIND オリジナルマインド)。しかし、自宅CNCは切削くずや切削工具破損と全面戦争する必要があるうえ、性能のいいものはそもそも高価であるなど、設備準備の段階でハードルが高いです。とても初級者向けとは思えません。CNCを使える方は間違いなく初級者ではないため今すぐ回れ右してください。手軽なCNCサービスに外注してしまう手もありますが、高コストのため、いろいろ試したい初級者~中級者にはきついです。
この記事で紹介する方法
そこで私は、ギヤ付きホイールの製作方法として、ホイールを3Dプリンターで印刷し、安い市販品のギヤを貼り付ける方法を紹介します(下図参照)。この方法は3Dプリンターを手に入れた後、様々に試行錯誤をして得た私の研究成果で、長期にわたって私のトレーサーの高速走行を支える基盤技術の一つでもあります。だいぶいい加減な構造をしていますが、相当に有用な情報ではあろうと確信しています。
ギヤ付きホイール。ホイールは3DプリンターでPLA樹脂にて印刷、ギヤは市販品のM0.5を貼り付ける構造。3DプリンターにはBambu Lab A1 mini(3万円)があればOK。私はAnkerMakeM5だけど。使うジグも3Dプリンターで印刷+一般市販シャフトを使うので、本当に特殊な工具は一切不要で作れる。逆にこんないい加減でいいの?って思ったりするのだが、こんないい加減でもそこそこ競技ができてしまう。もっと精度が欲しくなったら、自己研究でステップアップしましょう
この方法には次のような利点があります。
- ギヤ精度は3Dプリンターで印刷するより良い
- コストがとても安い(1個数十円)
- 強度が実用的に出る(4.5Gの加速度に余裕で耐える(ほんとか?))
一方、次のような欠点があるため、要注意です。
-
ギヤとホイールの中心精度がそこそこにしかならない(一応M0.5ギヤで困らない程度)。油断すると偏心が残るため、M0.3ギヤは厳しいかと
-
ギヤの接着はがれリスクがある。そのため、接着はがれが起こらないことを高負荷な試走で確認しないといけない(一応4.5Gの加速には耐えてる)
原理と考え方
市販品を貼り付けるにあたり、最も重要なのがギヤとホイールの中心をどうやって合わせるかです。これには、ホイールとギヤの中心だしジグを、3Dプリンターで印刷して使います。
原理を図に示します。ジグを使って、ホイールのφ6内径とギヤ外径を合わせるというのが中心だしの原理です。こうすることで、最終的にベアリング内径とギヤ外径の中心がそこそこで合います。ジグは、ギヤのハメ穴とホイール通しピンの同軸度と垂直度が求められますので、1パーツで印刷しましょう。ホイールには、ジグのピン(ここではφ6)にガタなく入る穴を用意します。この穴を、フランジ付きベアリングのはめ穴と共用にすることで、最終的にベアリングとギヤの中心が合うようにします。
それを、図のように重ね合わせ、接着することで、ギヤ外周とホイールベアリング穴の中心精度が合ったギヤ付きホイールとなります。
原理。結論でも出てきたなこの図。つまりこの原理こそがこのホイール製作の核心ともいえる。ホイールとギヤの中心だしをジグでする。このジグは写真の向きで3Dプリンターで印刷すればOK。3DプリンターのXY精度、Z垂直度がそのままジグに転写される。このジグを使うためにホイールやギヤの構造を考え、ベアリングの選定をした。
製作方法
ホイール
φ6内径部を用意できる構造かつ、ギヤの接着面が確保できる構造にしてください。内径部はジグの軸を挿すので、ガタが無くきつすぎない絶妙な寸法が必要です。何パターンも印刷して、ちょうどよい寸法を見つけましょう。

ギヤ
共立エレショップのPOMギヤを買います。自分の欲しい歯数でOKです。購入したギヤに、φ6軸(と、本記事のホイールの場合はMini-Zをまねたオフセット構造部)を避ける大きさの穴をあけます。この穴は中心位置だしに使わないので、多少偏心しても問題ありません。中心はジグを使ってギヤ外径で出します。私は適当に手加工で穴をあけてます。穴を大きくしすぎて接着面がなくなっちゃわないようにだけ気を付けましょう。
ギヤと穴あけ。結論の図を見るとわかるが、センタリングはジグで保証するので、穴は接着面を確保しつつ、でかめに中心っぽいところに空いていればよい。なので手加工でも全然OK。ボール盤で穴あけしても可。ただ、中心からずれ過ぎているとかっこ悪いので、多少気にしながら穴あけする。…のだが、いままでこのホイールを使っているトレーサーを凝視されまくって一度もギヤ穴が中心からずれていることに気づかれていない。案外そんなもんである。
ジグまわり
ギヤがガタなくはまりつつ、ホイールφ6内径に挿す棒がガタなくきつくなく挿入できる寸法で作ります。棒は例えばこんなの。
【超重要】接着前作業
接着前に、ホイール側にきちんとした接着面を作ります。これは、3Dプリンターで印刷したホイールでは、接着面がどうしてもガタガタするためです。
まず、ギヤ接着予定の面に二塩化メチレン(アクリサンデー等)を塗布し、接着面を柔らかくします。すかさず、ジグを使ってギヤに押し当ててください。接着と同じことをします。二塩化メチレンではPOMを溶かせないためくっつきはせず、すぐにぺりっと剥がれます。ここで、ホイール側は溶剤で柔らかくなっているため、ギヤの面に合わせて平面に潰れてくれます。こうすることで、きれいで平らな接着面を作れます。
接着前作業。溶剤でホイールの接着面を溶かして、接着面を均す。溶剤にはアクリル樹脂用接着剤の二塩化メチレンを用いる。均し方も簡単で、ジグを使って溶かした接着面をギヤに押し当てるだけ。ギヤはPOM製なので二塩化メチレンでは溶けない。そのためホイール側のみが一方的につぶれ、接着面が均される。あまりにも接着面が分かりにくかったので説明用にマッキーで黒く塗ってみたが、実際には塗る必要ないので注意。潰れてる感は全然なさそうに見えてきちんと潰れている。この潰れてきちんと平らになった面が強固にギヤ接着するために重要。
接着
セメダインPPXを用います。POMギヤ側にプライマーを塗り、ホイール側に接着剤を塗りましょう。そして、ジグを使って中心だしをしながらホイールをギヤに押し当てて接着してください。きちんと圧を加えるのが強固に接着するコツです。
完成
接着剤が乾けば完成です。フランジ付きベアリングをはめて、ご自身のトレーサーへインストールしてください。また、強固に接着できているか、実際に走行して高負荷をかけて確認してください。
応用
ホイール構造は、ジグの軸を通す穴とギヤ接着面さえあれば割と自由です。ご自身で気に入る形のホイールを設計してください。
ギヤ歯数も自由なので、自分のトレーサーにあう歯数をいろいろと研究してみてください。ピニオンギヤとセットで変更していけば、モーターマウンターを変更しないでギヤ比変更できます。
肝心のモーターマウンターの構造も初級者殺しなのですが、この記事の範囲を超えるため省略します。ご自身で研究しつつ、地区大会にていろんな人に質問しましょう。
おわりに
この記事では、ギヤ付きホイールの作り方について、3Dプリンターで出力したホイールに市販ギヤを貼り付ける方法を紹介しました。この方法にて制作したホイールで、2023年度と2024年度の全日本マイクロマウス大会のロボトレース競技において優勝しているため、性能はそこそこ信頼のできるホイールです。調達面も製作も楽なため、壊しちゃっても安心です。どうしてもうまくいかなかったら、あれを買いましょう。